なぜ、今心臓病が問題なのか?
心臓病は現在のところ増加傾向にあり癌に次いで日本人の死亡原因の第二位となっています。あなたの周りにも心臓病の人が少なくないと思います。心不全で呼吸困難におちいったり、狭心症の発作で胸痛に襲われたり、心筋梗塞のために救急車で病院にかつぎこまれたなどと聞くこともあると思います。また現在すでに心臓病と診断され治療をうけておられる患者さんも多いと思います。心臓病は怖い恐ろしい病気だというイメージがありますが、けっしてそうではありません。正しく理解し、適切な処置や治療をうけ、さらに予防策を講じてゆけば良い効果が期待できます。むやみに怖がる必要はありません。
欧米化した食事の内容、ストレス、睡眠不足、運動不足、喫煙、これらのことが心臓を痛め付けています。たいへん残念ですが心臓病の患者さんは増え続けています。生活習慣の変化が心臓に負担をかけているのです。 このホームページの心疾患のコーナーでは、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を中心に、心臓の働き、診断法、治療法、その危険因子などをわかりやすく解説しています。このページを見ていただくことにより心臓病に対する過度の不安が取り除かれ、また現在、健康な方々も今後にわたり心臓病と無縁でいられるように活用していただければ幸いです。
心臓はがんばっている
心臓は人間の体を維持し、生きていくために大変重要な役割を果たしています。この心臓は収縮と拡張という規則正しい運動を繰り返し、血液を全身に送り出しています。この血液によって全身の臓器は酸素や栄養分を受け取ることができるのです。もちろん、心臓は休むことなく働き続けています。普通心臓から送り出される血液の量は1分間に5リットルくらいです。一度収縮すると約60ミリリットルの血液が送り出されます。1分間に60回~80回収縮します。1日に心臓が打つ回数は約十万回、1年にすると約四千万回も働いています。このように心臓は大変に過酷な働きを続けています。
人が生きている限り心臓は休むことはできません。このように心臓は過酷な働きを休むことなく続けているわけですから心臓に気を配った生活が大切です。皆さん心臓をいたわっていますか。
心臓を養う冠動脈
心臓が休みなく働くためにも心臓の筋肉自身が栄養と酸素を必要とします。この心臓の筋肉を「心筋」と言います。心筋に栄養と酸素を送る血管を冠動脈と言います。冠動脈は右冠動脈と左冠動脈の二本があります。
しかし左冠動脈はすぐに前下降枝と回旋枝と呼ばれる二本に大きく分かれます。このため右冠動脈の1本と左冠動脈の大きく分かれた二本、これを合わせて冠動脈は三本あると普通言われています。冠動脈は残念ながら非常に動脈硬化が起こりやすいと言われています。
心臓病の種類
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虚血性心疾患
心筋に酸素と栄養を送る冠動脈に障害が起きる病気を虚血性心疾患と言います。これは狭心症と心筋梗塞に大きく分けることができます。逆に言えば狭心症と心筋梗塞を一連の病気としてとらえた言葉が虚血性心疾患です。この虚血性心疾患は現在、心臓疾患の中では最も多いもので食生活やライフスタイルの欧米化に伴い増加しています。
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狭心症
心筋を養う冠動脈の内腔が狭くなって、心臓の筋肉に十分な血液が流れなくなる状態です。心臓に必要なだけの栄養と酸素がなると、心筋は酸素と栄養不足に陥ってうまく働けなくなります。この時に患者さんは胸が締め付けられるような痛みを感じます。これが狭心症の発作です。冠動脈は狭くはなっていても、閉塞しているわけではなく少しは心臓の筋肉に栄養と酸素が供給されていますから、心臓の筋肉が壊死に陥ることはありません。これが狭心症と心筋梗塞との最大の違いです。狭心症の発作は普通長くとも15分以内に終わります。30分以上発作が続くときには急性心筋梗塞を疑う必要があります。狭心症の中でも階段を上がったり、走ったり、興奮したりして心臓に負担がかかった時に発作が起こるものを労作性狭心症と言います。一方逆に夜中に寝ているときや静かに休んでいるときに突然胸が苦しくなるもの安静狭心症と言います。労作性狭心症は冠動脈の動脈硬化による狭窄が原因とされます。一方、安静狭心症は冠動脈の攣縮、つまり血管がけいれんを起こして一時的に狭くなる状態、これが発作を起こしていると考えられています。狭心症の発作が頻回に起きる時には、急性心筋梗塞になりかかっていると考えられます。この状態を不安定狭心症と言います。急いで循環器専門医を受診する必要があります。
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急性心筋梗塞
急性心筋梗塞とは心臓の筋肉、つまり心筋を養っている冠動脈と呼ばれる血管が閉塞することにより、心筋に栄養と酸素がいかなくなり壊死することです。壊死に陥った心筋は収縮する力がありませんから心臓の働きが悪くなります。急性心筋梗塞は最も傷みの激しい病気の代表で、胸が締め付けられるように痛くなり、万力で絞められたようだとか、象に踏まれたように痛いと表現される患者さんもいるくらいです。痛みだけでなく死の恐怖感を伴うことが普通です。冠動脈がより根元の方で閉塞し、多くの心筋が壊死に陥ると、心臓のポンプとしての機能がとてもわるくなり、全身で必要なだけの血液を送り出すことができなくなります。心不全や場合により心原性ショックと呼ばれる重篤な状態になります。一旦、心筋梗塞に陥ると脈の乱れつまり不整脈も起こりやすくなります。
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心臓弁膜症
心臓にある4つの弁の中でどれかがスムーズに開閉しなくなり、心臓のポンプとしての働きに障害が出る病気です。弁の働きが悪くなるのには2種類あります。ひとつは弁が癒着したり硬化したりして十分に開かなくなる狭窄症、もう一つは弁が本来閉鎖すべき時にも隙間が残り閉じなくなる閉鎖不全症です。閉鎖不全症は閉じなくなったときに血液が逆流するので、医者によっては逆流症と呼ぶ場合もあります。心臓弁膜症は軽い場合には症状がないことも多いですか、徐々に息切れ、呼吸困難、むくみなどの症状が出てきます。症状が軽い場合には安静や薬物療法だけで十分ですが、重症の場合には手術をして弁を直接修復する必要がある場合もあります。
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不整脈
心臓の収縮と拡張を繰り返す拍動のリズムが乱れる状態を不整脈と言います。不整脈といっても多くの種類があります。その主なものとしては次のものがあります。期外収縮、心房細動、心室細動、心室頻拍、発作性頻脈などです。不整脈そのものは心臓の機能的な問題であり、心筋梗塞などの疾患とは区別して扱われることが多いです。しかし患者さんにとっては症状の訴えが強く、精神的にも負担の大きい病気です。不整脈の種類にもよりますが、ある程度の不整脈は生理的なもので心配はありません。また、不整脈のタイプによってはカテーテル?アブレーションという方法で根治させることもできます。まずは、専門医を一度受診して、自分のもつ不整脈のタイプを調べてもらい、それに応じた対策を講じる必要があります。また、不整脈は寝不足や過労そしてストレスによって悪化します。不整脈をもつ方は十分に睡眠をとり、ゆったりとした生活を心がけましょう。
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心不全
心不全は病名ではなく、心臓がポンプとしてうまく働けなくなり全身で必要なだけ血液を送り出せなくなった状態のことです。その心不全をおこす病気として心筋梗塞や心臓弁膜症といった病名をもつ病気があるわけです。心臓は左心室を中心とした左心系と、右心室を中心とした右心系の二つのポンプに別けられます。したがって心不全も左心系が悪い左心不全と右心系が悪い右心不全に区別されます。しかし、左心不全と右心不全は同時に起きることが多くこの場合には「うっ血性心不全」といわれます。左心不全の症状は、息切れや呼吸困難としてあらわれます。これは、肺に水(血液)が余分に貯留することによります。右心不全は全身の浮腫(むくみ)としてあらわれます。足の脛や甲が腫れます。この浮腫は重力のかかる方向に移動します、寝れば背中がむくみます。また、目に見える足の脛や甲だけでなく、体の内部も同様で消化管の粘膜や肝臓もむくみます。このため食欲不振や嘔気?嘔吐がおこります。場合により腹水がたまることもあります。
心臓病の症状
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胸痛
胸の痛みは心臓病の患者さんで最もよくある症状です。代表的な病気は狭心症と心筋梗塞です。胸の真ん中からみぞおち、時に首から喉にかけての締めつけられるような痛みです。単に痛むだけでなく死の恐怖感を伴うことも特徴です。狭心症の胸痛は普通数分でおさまりますが、心筋梗塞では痛みの程度も強く長く続きます。
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息切れ、呼吸困難
日常の活動や労作で大きく肩で息をするようになったり、悪化すると安静にしていても息苦しくなります。寝ているよりも座ったり、立っているほうが楽になることがあります。心不全による場合がほとんどです。心不全とは心臓がポンプとして充分に血液を送り出せなくなった状態です。心臓だけでなく肺の病気でも同じような症状がみられることがあります。
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動悸
普通、私たちは自分の心臓の鼓動を自覚しませんが、それがはっきりと解ることです。突然脈拍数がふえておさまらない、脈が時々抜ける、強く打つなどと感じます。不整脈が疑われます。不整脈にも多くのタイプと分類があります。
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むくみ
足の甲や、すねがむくみ腫れてきます。軽い程度のむくみは正常でもみられます。心臓病のむくみは下半身に強くでます。一方、腎臓が悪い場合には顔やまぶたが腫れやすくなります。心臓が送り出した血液は再び心臓にかえってくるわけですが、この血液を送り出しきれず溜まってしまうことによります。これも心不全による場合が主です。
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失神発作、めまい
目の前が真っ暗になり気を失ったり、ふらふらしたりします。このような症状をおこす心臓病は不整脈でも脈が遅くなるタイプのものです。代表は房室ブロックです。
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症状のあまりないもの
無症候性心筋虚血といいあまり胸痛など症状のない病気があります。心筋虚血とは狭心症と心筋梗塞のことです。なかなか症状があらわれず、心臓が最終的に働かなくなってはじめて重大な命にかかわるような心不全で発症することがあります。
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背中の痛み
背中を斬られたような激烈ないたみが突然発生します。大動脈解離が考えられます。大動脈とは心臓が血液を送り出す一番根本の太い血管で、その血管壁が突然裂ける病気です。死亡率の高い危険な病気です。
心臓病の治療
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を含め、心臓病の発作や症状が起こり心臓病という診断がついたならば治療を受ける必要があります。治療の方法としてはお薬を内服する「薬物療法」、「カテーテルによる治療」、手術をする「外科治療」などがあります。さらに病院で受ける治療だけではなく生活の中で食事に注意をはらい、適度な運動を行うといった生活療法も必要です。
「薬物療法」としては、血管拡張剤(血管を拡げ血液の流れをよくする。)、降圧剤(血圧をさげ心臓の負担を軽くする。)、抗血小板剤(血液をサラサラにして流れをよくする。)、利尿剤(尿がたくさんでるようにする。これにより心臓の負担が軽減される。)、強心剤(心臓の働きを強くする。)、抗不整脈剤(脈の乱れを直したり予防する、)などがあります。
カテーテル治療
「カテーテルによる治療」は今もっとも進歩している分野です。狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は冠動脈が痛んで狭くなることによっておこる病気です。この冠動脈の病変部(動脈硬化で狭くなったところ)を小さい風船で内側より拡張する方法です。風船の大きさは径が2から4ミリ、長さが20ミリぐらいです。血管を拡げたのちに収縮させて抜き去ります。このために患者さんに説明するときに「風船療法」と言う医師もいます。さらに、この風船による拡張に加えて、そこが狭くならないように金網でできた筒状のチューブを血管のなかに入れる方法があります。このチューブをステントといいます。
バイパス手術
「冠動脈バイパス手術」も狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の治療として重要です。血管の狭いところや閉塞した病変部の先に別の血管を繋いでまわり道(バイパス)をつくる方法です。「カテーテルによる治療」は比較的軽症の患者に、「冠動脈バイパス手術」はより重症の患者に選択されます。この「冠動脈バイパス手術」も手術法が最近、急速に進歩してきています。以前は人工心肺とよばれる機械を使い心臓を一旦完全に停止させなければ手術できなかったのですが、いまは心臓が拍動したままで手術する方法を普及しつつあります。同じ心臓外科手術でも身体にたいする侵襲が小さく回復も早いという利点があります。しかし、手術をおこなう術者には、より高度なテクニックが必要とされます。
危険因子をへらせ
患者さん自身の持っている性質の中で、その性質とある病気を引き起こすことの関係が明らかなものを危険因子と言います。心臓病では危険因子がかなり明らかになっています。心臓病を引き起こしやすい危険因子を紹介しましょう。
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高血圧症
血圧が高いと動脈硬化は起きやすくなり、それにより狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が起こりやすくなります。また血圧が高いと心臓がより強い力で血液を送り出さないといけないために心臓肥大が起こり心臓そのものにも負担がかかります。
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脂質異常症
血液の中にはコレステロールや中性脂肪などの油分が含まれています。これらの油分が血液中に普通よりも多くなった状態を脂質異常症と言います。脂質異常症の人は、血管の内側の壁にコレステロールなどの油分が付着しやすくなります。コレステロールなどの油分が沈着すると血管の内腔が狭くなり血液の流れがスムーズにいかなくなります。これが動脈硬化です。その原因としては食事の影響および遺伝的な因子があります。特に最近の欧米化した食事内容はコレステロールを多く含み脂質異常症になりやすとざれます。
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糖尿病
糖尿病は心臓に限らず様々な病気の誘因になります。糖尿病とは血液中の糖分が異常に多くなる病気です。この血液中の糖分を血糖値と言います。血糖値が高い状態が長く続くと血管が痛みやすくなります。糖尿病に加えて高血圧などその他の危険因子が加わると心臓病を起こす可能性が高くなります。
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肥満
肥満の方は肥満の人はやせている人に比べて心臓の負担が大きくなります。例えれば、軽自動車のエンジンで普通自動車やトラックを動かしているようなものです。また肥満のタイプの中でも皮下脂肪ではなく、おなかの中の臓器の周りに脂肪がたまる内臓脂肪蓄積型肥満とばれるタイプは心臓病の危険が大きくなります。これは、日本人に多い「下半身デブ」ではなく、欧米人によく見られる、お腹まわりだけが突き出たようなふとりかたです。
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ストレス
狭心症や心筋梗塞になる患者さんは働ざかりでバリバリと仕事をしている、いわゆるエリートと呼ばれる方よく発生します。これは体に過度のストレスや疲労が蓄積すると動脈硬化を促進するためです。心臓病になりやすい方の性格はA型人間と呼ばれています。このA型人間とは、負けず嫌い、攻撃的、精力的、野心的、などの性質をもった人です。他人に仕事を任させられない、「自分がしなければだめだ。」という思いの強い方の性格です。ゆったりマイペースで事を運ぶようにすることが大切です。
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喫煙
タバコを吸うと血管が収縮し血圧や脈拍数を上昇させます。タバコを長期間、多く吸っていると動脈硬化は進みやすく狭心症や心筋梗塞になりやすくなります。
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遺伝的な素因
両親や親戚に狭心症や心筋梗塞などの心臓病患者がいる人の場合、そうでない場合より自分も心臓病になる確立が高いといえます。明らかに遺伝するというものではありませんが、同じ家系の中に多く発生する傾向があります。しかしこの遺伝的因子については、運命であり自らの努力では取り除くことのできない因子です。したがって家族に心臓病患者の多い方は喫煙や肥満などといった自らの努力で取り除くことのできる因子を積極的に取り除くようにすることが肝要です。