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SH I GA I DA I NEWS v o l . 2 1
健康格差縮小の鍵を握る
社会経済的環境の整備も視野に入れた健康政策
そして日 どう関連して
働市場の使い捨
人々の健康障害を作
していきました。
私は批判的社会理論という
スに調査研究を進めます。
本では違和感がありますが、 簡単
段あたりまえに見えている状況を見
いくこと す。 伝統的な研究手法は日雇
者の生活習慣を客観的事実として捉えます
一方批判的社会理論では一見客観的事実と
見える生活習慣は実はその社会での有力な
見方の一つにすぎないと考えます。 そしてそ
の見方の形成にどのような社会構造が影響
しているのかを明らかにしていきます。 言い
換えると当たり前に見える社会現象を 「批判
的」 に捉えなおし、 現象の背景にある社会のし
くみを理解することです。
昨年5月から滋賀医大に着任し新たに滋
賀県の高齢者を対象に研究に取り組むこと
にしました。 現在の介護予防は筋力増強あ
るいは嚥下機能の低下予防など個人レベル
の要因の改善を目的とするものがほとんど
です。 これ どんな高齢者でも運動機能や
嚥下機能など生活に必要な機能が等しく低
下するという考え方を前提にしています。
しかし、 運動機能や嚥下機能を長く維持
する高齢者がいる一方で、 早くからこれら
の機能が低下してしまう人もいます。 この
差は何からくるのでしょうか。 高齢者自身
の運動や食生活に対する関心や努力が不
足しているからだけでしょうか。 数年前に
我が国 高齢者を対象と た研究で経済
力の低い人は要介護になりやすいという
ことが報告されました。 これは経済的負担
の大きい人たちほど生活機能が低下する
傾向を示しています。 つまり社会環境要因
の影響を考慮せずに介護予防事業を展開
した場合、 住民間の健康格差が広がること
が予測されます。 滋賀県の高齢者を対象に
生活機能 低下に関与する社会環境要因
とは何か、 そしてそれらの要因がどのよう
なプロセ のか明らかに
質的研究 ら疫学調
せるエビデンスをつく
私は民族誌学的方法や言説分
ざまな研究方法を用いますが、 扱
は主として当事者の語りや観察、 あ
文書の記述内容など質的なものです。 疫
調査だけですと不健康を起こす社会環境要
因を特定できたとしてもその複雑なメカニ
ズムまではなかなか解明できません。 しか
し質的データの分析結果だけですとエビデ
ンスとして健康政策の決定に活用される可
能性が少なくなります。 ですから今回の私
の研究の計画では、 質で得られたデータか
ら検証可能なモデルを作成し、 疫学調査へ
つなげていく予定です。 これには疫学を専
門にする先生方とのコラボレーションが必
要で、 そのために講座を超えた研究体制を
整えました。 具体的には3年計画で を
実施した後 理論モデルを作って、 それを疫
学モデルに切り替えて、 疫学調査を実施す
る予定です。
世界の公衆衛生の動きの中で
health
activism
ということばがあります。 これは
市民の立場から不公正な健康格差をなくす
ために社会のあり方を変えていこうとする
動きです。 私は研究者ではありますが、 常に
市民の立場 立ち、 健康政策の企画立案に
携わる人たちがより公正な判断をできるよ
う研究結果を提供し、 どんな人でも健康に
生きる権利を実現できる社会に るように
貢献していきたいと思います。
ポピュレーション?アプローチでは
図1
のように、集団全体の健康度の均一的な改善を仮定する。しかし行動変
容のみの改善を目指すと介入後の健康度の分布の変化は
図2
に示すように、集団の平均効果は改善する
が、集団間の健康格差が広がる可能性がある。
図1
図2
介入後
介入前
リスク要因への
暴露の程度
介入後
介入前
利益の集中
リスクの集中
リスク要因への
暴露の程度
平均効果
平均効果
Frohlich, K. L. & Potvin, L.(2008). The Inequality Pradox: The Population Approach and Vulnerable Populations. American
Journal
を)8-712P( 2び及1erugiF ,122-612 :)2( 89 .htlaeH cilbuP fo
一部翻訳したもの。